(質問のつづき)
シャント手術を透析治療をはじめる前にしておく必要があるのか? と不安になっています。
[回答]
●シャントを先に作っておくことをおすすめします
大切なお母様が腎臓を悪くされているのですね。
シャント手術をすすめられたということは、 できるだけ透析をやりたくないというお母様のご希望はその通りだとして、 現実としては透析が必要となる時期がそう遠い将来ではないであろうと 主治医の先生が判断をされているということだと思われます。
結論から先に申し上げると、お母様にとって大変つらいことだと思いますが、 シャントを先に作っておくことをおすすめします。
●シャント手術を受けても、すぐに透析治療が可能にはなりません
血液透析が必要となった場合、シャントという(通常は腕ですが)血管を 太くする手術が必要になります。
この手術をお受けになるとすぐに血管が太くなって、透析治療が 可能になるわけではありません。
最低でも手術から2週間はあけたいですし、理想的には2か月くらい経ってから 透析を始められるとよいと考えています。
●シャント手術をする時期の判断が難しい理由
ここで問題なのは、仮に2か月前にシャントの手術をしようと決めたと仮定して、 いつがその「2か月前」なのかがわからないことです。
つまり、いつ透析が必要になるのか、「急に容態の変化」が 起きてしまうのかどうかの予測は容易ではありません。
私たち腎臓医は、できるだけ患者さんの全身状態のよい時点で 透析を開始したいと考えています。
「全身の状態がよい」ということは患者さんが自覚症状が ほとんど(あるいは全く) ないということで、 患者さんは「こんなに調子がいいのに透析が必要なのか?」と 疑問をお持ちになることが少なくありません。
ですが、早めに透析を始められた方が、症状が出てしまって、 お体の調子が悪くなってから透析をお受けになるよりは、 ずっと楽なことで、その先の病状も違ってくることを 私どもは経験しているのです。
そのために、シャントの手術もできるだけ早いうちにという考え方をして シャント手術をなさることをおすすめしています。
もちろん、何年も前もってという必要はありませんから、 だいたい数か月先に透析が必要になるだろうという予測から 主治医の先生もシャント手術をすすめられているものと思います。
●シャント手術が早すぎる心配はないのか
また、シャントは永久のものではないことは知られていますので、 シャントを早く作りすぎのではないかというご心配もあるようです。
長い方でも10年間シャントがもっているという方は少数で、 早い方ですと数か月でシャントがダメになってしまい、 手術をやり直す方もいらっしゃいます。
ただ、このシャントがダメになってしまうケースの多くは、 シャントを作ってから初めて透析で使用するまでの期間が、 透析治療を急ぐなどのやむを得ない事情から短かったものです。
例外がないわけではありませんが、前もってシャントの手術を お受けになっておいて、 十分に血管が発達してから透析を始められた方が、 結果的にシャントの寿命を延ばすことができることも、私どもは経験しております。
手術は、一般的には病気を治すためのものです。
しかし、シャントの手術はお受けになっても、お体の調子がよくなるわけでも 命が長くなるわけでもありません。
透析が一歩近づいた、ということになりますから、その意味でもつらい手術です。 しかし、お母様がいずれ透析治療が必要となったときに、早めにシャントをつくって おいてよかった、ということになると思います。
●もしシャント手術をしていない場合のこと
なお、シャントがない状態でも、緊急に透析が必要になったときには 透析用のカテーテルという管を使用して、透析治療を行うことが可能です。
そうすると、いざ透析が必要になってから、カテーテルで治療を開始して、 透析をやりながらシャントの手術をするという順番になる方もいらっしゃいます。
しかし、カテーテルのトラブルがあり得ることや、 シャントを急いで作るため十分に血管が発達しないうちに使用して、 上記のようにシャントが早くダメになってしまうこともあります。
ですから、早いうちからきちんとシャントの準備をしておくことを お勧めしています。
Comments