(質問のつづき)
総タンパク質を上げたいと考えているそうですが、主治医の先生から 「総タンパク質を上げたら、尿素窒素も上がる」と伺ったそうです。 「総タンパク質を上げて、尿素窒素を下げる」方法はあるのでしょうか?
[回答]
●総タンパク質と尿素窒素の関係
調理に手間をかけていただいているので カリウムの値がよいのですね。おつかれさまです。
結論から申し上げると、 「総タンパク質を上げて、尿素窒素を下げる」 というのは、とても難しいことです。
血液の検査で総タンパクやアルブミンという項目は 高めの方がよいことが知られています。
名前の通りタンパク質ですので、お肉やお魚、乳製品などを たくさん食べていただけば、総タンパク・アルブミンは 上昇することがあります。
一方、尿素窒素はこのタンパク質が分解されてしまったあとの ゴミ(老廃物)です。
尿毒素とも呼ばれますが、必ずしも「毒」というわけではありません。
しかし、血液検査では低い方がよいのです。
透析をお受けになっている方が、たくさんタンパク質をお摂りになったときに、 血液の総タンパク・アルブミンがあまり上昇せずに、尿素窒素だけが 上昇してしまうことがあります。
この場合には、リンも上昇することがほとんどです。
これでは逆効果になってしまいますね。
●なぜ尿素窒素が上がるのか?
どうしてこのようなことが起こってしまうのでしょうか?
食事中のタンパク質は、胃や腸の中で消化をされます。
そうすると、バラバラに分解をされてアミノ酸という形になります。
お聞きになったことがあるかも知れませんね。
このアミノ酸に分解されて、初めて腸から血液の中に吸収されます。
吸収をされたアミノ酸は、人間の細胞の中で再びタンパク質に 作り替えられます。そのタンパク質が筋肉になったり、血液中の 総タンパク・アルブミンになったりするのです。
つまり、アミノ酸はタンパク質を作るための部品なのです。
私たちは、自分が必要としているアミノ酸の量をきちんと正確に 摂取するわけではありません。
そんなことは不可能です。
必要とする量よりも多めに摂って、余った分は捨てているのです。
これが尿素窒素になります。
腎臓の働きが正常であれば、尿素窒素はオシッコの中にどんどん 捨てられていきますから、血液中に貯まることはありませんが、 透析をお受けになっている方では、蓄積してしまいますから、 これを透析で除去するのです。
わかりやすくするために、正確さは欠きますが、 このように考えていただいてほぼ間違いはありません。
ですから、タンパク質の多い食事をすると、血液の総タンパク・アルブミンが 上昇するかわりに、尿素窒素も上昇してしまうのです。
これが主治医の先生がおっしゃったことなのです。
●タンパク質を多く摂っても総タンパク質が上がらない理由
さらに、複雑なことなのですが、タンパク質を多くお摂りになっても 総タンパク・アルブミンはほとんど上昇せずに、尿素窒素だけが 上昇してしまうことがあります。
これは、アミノ酸という部品がたくさんあっても、腎不全という重大な 病気があるために、うまくタンパク質を作ることができないためと 考えられています。
タンパク質を作る工場(細胞)がうまく機能しないと、 部品(アミノ酸)がたくさん余ってしまって、それが尿素窒素になってしまうのです。
●対策方法はないのか?
それでは、どうすればよいのでしょうか?
患者さんの状態にもよりますが、次のことを考える必要があります。
(1)患者さんがご高齢であって、データがそれほど悪くなければ 現在の食生活をあまり変更せずに、そのまま様子を見る方法があります。
総タンパクで6.0以上、アルブミンで3.0以上くらいあれば、ご高齢の方の場合、 無理にタンパク質を食べなくてもよいと思われます。
(2)患者さんがまだ若くて、総タンパク・アルブミンを上昇させたい 場合は、食事中のタンパク質を増やしますが、同時に適度な運動を きちんとして、かつ、透析量を増やすことが重要です。
透析量を増やす、というのは、透析で毒素をたくさん除去することで 透析時間を延長したり、血流を増やしたり、ダイアライザーを大きくしたり します。これは、主治医の先生や透析スタッフがお考えになることです。
尿毒素をたくさん除去して、アミノ酸をタンパク質に作り替える工場が 活発に働くようにして、しかも、出てくる老廃物である尿素窒素を たくさん除去することが必要になるのです。
運動量を増やすことも重要です。
極端な例をあげますが、寝たきりの方は、どんなにタンパク質を食べても、 なかなか血液中の総タンパク・アルブミンは上がってきません。
細胞という工場がうまく働くためには、運動も大切なのです。
「総タンパク質を上げて、尿素窒素を下げる」のはとても難しいことで、 患者様のお体の状態にあわせて対策をしていくことが必要です。
主治医の先生とも、よくご相談していただくことをおすすめいたします。
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